top of page
男子スラローム第7戦(2016年1月26日 シュラドミング/オーストリア)

クリストッファーセン今季6勝目

ヒルシャー出遅れるも驚異的な追い上げで2位に浮上

 

男子スラローム第7戦。シュラドミングのナイトレースは、すごいレースでした。地元の英雄、マルセル・ヒルシャー(オーストリア)1本目22位という大失速でしたが、2本目は魂の滑りで2位にまでジャンプアップ。圧倒的なベストタイムでした。彼の順位がひとつあがるたびに、火曜の夜、約5万人が詰めかけた会場は地響きのような歓声に包まれました。
しかし、そのヒルシャーの強烈な追撃を、またしても力で退けのが、ヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー)。これで今季6勝目で、しかもアデルボーデン、ウェンゲン、キッツビュール、シュラドミングとビッグレースを4連勝と総なめです。
3位には、昨年のこの大会の覇者、アレキサンダー・コロシロフ(ロシア)が入り、1本目、素晴らしい滑りでトップに立っていたフェリックス・ノイロイター(ドイツ)は、2本目途中棄権。目の前にあった今季初勝利はするっと手の中からこぼれました。
湯浅直樹は1本目を27位で折り返し、2本目も危なげのない滑りで最終的には順位を20位にまで上げました。今シーズン初となるワールドカップポイント獲得です。充分とは言えないまでも、2月に行なわれる苗場大会に向けて好材料でしょう。

大きなミスもあったが、激しいアタックで2位入賞のアレクサンダー・オーモット・キルデ。初の種目別チャンピオンに輝いた

アデルボーデンで、ウェンゲン、キッツビュール、そしてシュラドミング。クリストッファーセンの快進撃は止まらない

1本目1番スタートで素晴らしい滑りを見せたフェリックス・ノイロイター。今季初優勝かと思われたが2本目にポールをまたいでしまった

得意のシュラドミングで20位。湯浅直樹はようやく今シーズン初めてのワールドカップポイントを獲得した

 

ヒルシャーの1本目の出遅れは、スタート直前にゴーグルが突然曇ったことが原因でした。スタートを待つ間、腹筋や腕立ち、あるいはチューブを使ったトレー ニングなど、激しいウォーミングアップを行なうシーンがテレビでもときどき映しだされますが、彼は最も激しく身体を動かしてからスタートに向かう選手です。そして、もっとも汗を多くかく選手でもあります。そのため、ハウスに入り、スタート直前になって、身体から立ち上る熱気で突然ゴーグルが曇ってしまったようです。その段階では時間的にゴーグルを交換する余裕がなく、そのままスタート。
すべてに完璧を求め、準備には万全のうえにも万全を期すヒルシャーでも、こんなことがあるんですね。先日、ヒルシャーのトレーニングにお邪魔し、その様子を実際に見る機会がありましたが、練習でさえ、一切のミスがないよう周到に準備をすることが印象的でした。(その時のレポートはこちら)

 

スタート直前にゴーグルが内側から曇るという不測の事態。ほとんど前が見えない中懸命に滑るヒルシャー

ヒルシャーは、レース後の記者会見で
「どんな注意していても、こういうミスは起こりうる。だからこそ練習でも手を抜かないのだが、それにしても馬鹿げた失敗をした。もう曇ったゴーグルで滑る なんて経験は2度としたくないよ」と語っていました。写真をアップで見てみると、たしかに彼のゴーグルレンズは内側が相当曇っていることが分かります。ほ とんど前が見えないなかでの滑りだとすれば、1本目の彼のスラロームも素晴らしいものだったわけです。

マルセル・ヒルシャー101
マルセル・ヒルシャー102
マルセル・ヒルシャー103
マルセル・ヒルシャー104
マルセル・ヒルシャー105
マルセル・ヒルシャー106
マルセル・ヒルシャー107
マルセル・ヒルシャー108
マルセル・ヒルシャー109
マルセル・ヒルシャー110
マルセル・ヒルシャー111
マルセル・ヒルシャー112
マルセル・ヒルシャー113
マルセル・ヒルシャー114
マルセル・ヒルシャー115
マルセル・ヒルシャー116
マルセル・ヒルシャー117
マルセル・ヒルシャー118
マルセル・ヒルシャー119
マルセル・ヒルシャー120
マルセル・ヒルシャー121
マルセル・ヒルシャー122
マルセル・ヒルシャー123
マルセル・ヒルシャー124
マルセル・ヒルシャー125
マルセル・ヒルシャー126
マルセル・ヒルシャー127
マルセル・ヒルシャー128
マルセル・ヒルシャー129
マルセル・ヒルシャー130
マルセル・ヒルシャー131
マルセル・ヒルシャー132

また上の一連の写真でもわかるように、急斜面の終わり付近で、すねで倒したポールが激しく戻ってきて右手を叩き、ストックを握り損なうアクシデントまでありました。わずか1旗門の間に素早く握り直していますが、右手で必死にグリップを手繰り寄せつつ、迫ってくるポールは左手1本で倒すという、神業のようなリカバリーを見せています。とにかくヒルシャーの1本目は、とんでもない大冒険でした。

「2本目はすべてをかけて、勝負に出た。このまま下位に入賞して数ポイント稼ぐよりは、失敗してもいいから限界までアタックしようと決めたんだ。今日はコースコンディションが厳しかったが、僕にとってはそれが幸いした。あの状況から2位になったのだから、結果には満足だ」と波乱のレースを振り返りました。

一方のクリストッファーセンは

「マルセルが素晴らしい滑りを成功させ、誰も彼を抜くことができなかった。でも僕は大きな失敗さえしなければ勝てると信じていた。前半の緩斜面はバンピーだったが、急斜面に入ってからのコースは問題なかった。最後まで自分をプッシュして最高の滑りをしようと思った」。その結果、クリストッファーセンが0秒61差をつけてベストタイムのゴール。4連勝を決めました。

終わってみれば、ヘンリック・クリストッファーセンとマルセル・ヒルシャーの強さが改めて浮き彫りになったレースでしたが、しぶとく3位に食い込んだアレキサンダー・コロシロフ(ロシア)の健闘も称えるべきでしょう。1本目は4位。2本目は多くの選手がヒルシャーのあまりに強烈なスーパーランにすっかりペースを乱される中、彼は辛うじて踏みとどまり、見事表彰台の最後の席にたどり着きました。コロシロフはシュラドミングとは谷を挟んで向かい合う山、ラムサウに住んでおり、彼にとってはほとんど地元というべきレースでした。昨年は優勝、今年も3位。やはり地の利というのは大きいようです。近所ということで、この日は奥さんともうすぐ2歳になるという娘のアナ(?)ちゃんも会場で観戦。2本目開始前までは元気にはしゃいでいたアナちゃんも、やがてお母さんの腕の中で熟睡。それでも表彰式のときには目を覚まし、めでたくパパと一緒に表彰台の上に上りました。

 

ちなみに、クリストッファーセンも同じくラムサウ暮らしです。
「もちろん、ノルウェー人ということに誇りを持っているし、ノルウェーは大好きだけど、今はレースを優先してラムサウに住んでいる。オーストリアは大好きだよ」と語っています。
「今日は彼女が応援に来ていたね?」と会場MCに聞かれたクリストッファーセン。
「ゴールで僕の右隣にいたブロンドの女性? あれは僕のママだよ」と顔を真赤にして否定しました。とはいえ、近くには、それらしき女性の姿も。実際のところはどうなんでしょうか。

bottom of page