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男子ジャイアント・スラローム第7戦(2015年12月12日 ヴァル・ディゼール/フランス)

急斜面の連続する難コースでヒルシャーが圧勝

ノイロイター2位で今季初表彰台

 

 素晴らしい青空のもとで行なわれたワールドカップ男子ジャイアント・スラローム第3戦。時間をかけてしっかりと準備されたコースは、硬く凍っていましたが、比較的グリップの効く良い雪質だったと思います。このコースの特徴は、とにかく斜度が急なことです。スタート直後に短い緩斜面がある以外は、ほとんどが急斜面。したがって比較的細かいターンが連続し、スキーを滑らせる滑走区間はほとんどありません。その分、タイム差はつきにくいのですが、一瞬のミスが命取りになるという点で非常に厳しいコースといえるでしょう。

快晴、無風、硬く締まったアイスバーン。最高の条件のレースだった

 

 1本目はマルセル・ヒルシャー(オーストリア)がリード。彼自身はあまり満足のできる滑りではなかったといいますが、2位の好調ヘンリック・クリストッ ファーセン(ノルウェー)が続き、3位はヴィクトール・ムッファ・ジャンデ(フランス)という展開。先週のビーヴァー・クリークGSのトップ3と同じ顔ぶ れ、同じ順位でした。注目のテッド・リガティ(アメリカ)は、予想外に振るわずミスを重ねて42位(+2秒83)。ビーヴァー・クリークのGSに続き、2 本目を滑ることなく午前中でレースを終えました。

得意とするコースを思い切り攻め、異次元の速さを見せつけたマルセル・ヒルシャー

わずか100分の1秒及ばず2本目進出を逃した石井智也だが、素晴らしい滑りは鮮烈な印象を与えた

 

 気温は高めで、春のようなぽかぽか陽気でしたが、コースが最後まで硬さを保ったため、遅いスタート順の選手にも上位進出の可能性がありました。このチャン スを生かし、果敢な滑りを見せたひとりが石井智也(サンミリオンSC)。47番スタートの彼はコース前半で大きなミスを犯しましたが、その後の急斜面はす さまじいアタックで追い上げ、ゴールした時点では28位のタイム。ヒルシャーとはわずか2秒22という僅差でした。通常ならこのタイム差は充分に2本目に進めるのですが、この日は非常にタイムの詰まったレースとなり、石井は100分の1秒及ばず32位。30位に同タイムの選手がふたりいたので、実質的には31番めのタイムでした。

 

 昨シーズンから、成田秀将(東海大)とともにインスブルックにアパートを借りてレース活動をする石井。今季はナショナルチームから外れたために、トレーニ ングはWorld Racing Academy - WRAというプライベートチームをベースに行なってきました。先週はチームのメンバーとともに、ノルウェーに遠征しヨーロッパカップに出場。スラロームとGS各2レースずつ戦いましたが、GSはいずれも1本目で途中棄権。スラロームも34、27位と悔しい結果に終わっていました。それが、この日は吹っ切れたような思い切りの良い滑りで果敢にアタック。とくに後半部での速さが際立っていました。ほんのわずかの差で2本目進出は逃したものの、今後に大きな期待を持たせる素晴らしい滑りだったと思います。

 

2本目の快走で2位に浮上したフェリックス・ノイロイター。持病の腰痛に苦しみながら今季初の表彰台

 2本目は、序盤の緩斜面の出口にいやらしい旗門が立ち、多くの選手を苦しめました。ちょうど夏道が横切る部分で、手前が少しえぐれたような地形。したがって次の急斜面に向かってジャンプ台のような感じとなっていました。しかもかなりの高速でアプローチするため、タイミングが合わないと大きくバランスを崩してしまいます。1本目4位のトーマス・ファナラ(フランス)と2位のクリストッファーセンが激しいクラッシュをここで演じ、表彰台に上るチャンスを逃してしまいました。このふたりの失敗で、1本目6位だったフェリックス・ノイロイター(ドイツ)が2位に浮上し、またムッファ・ジャンデも3位の座を守りきりました。ノイロイターはこれが今季初の表彰台。ムッファ・ジャンデはビーヴァー・クリークに続き2戦連続で3位となりました。

 

 2本目、最終走者のヒルシャーはさすがと思わせる別格の滑りを見せ、2本目のベストタイム。2位ノイロイターとはトータルで1秒29の大差でした。これで ワールドカップ通算34勝目。ボーディ・ミラー(アメリカ)を抜いて現役の男子選手としては最多勝記録となります、またヴァル・ディゼールのGSでは3連勝で通算4勝目、スラロームも含めれば6回の優勝をこのコースで達成。これも新記録です。ただ、記録を更新したことについて質問を受けたヒルシャーは

「大事なのはレースの成績(Result)であって、それがどんな記録(Record)になるのかは、僕にとってまったく問題ではない。いつか歳をとって引退し、暖炉の前で赤ワインでも飲みながらワールドカップの歴史について書かれた本を読む。そんな日が僕の人生にもやってきたら、その時には、自分の成し遂げた記録について振り返ってみようかなと思う」と語りました。

そしてこのコースに強い理由については

「これでGS2連勝だが、先週のビーヴァー・クリークとこことではコースの性格がまったく違う。ビーヴァー・クリークは、比較的緩斜面が長く、スーパー G的なターンも多いコースだが、ヴァル・ディゼールはほとんどが急斜面。だからスラローム的な技術が必要とされる。僕がいつもここで好成績なのは、そういう理由があるのだろう」と分析しました。

 

 この優勝で、総合でもこのレースには出場していないアクセル・ルンド・スビンダル(ノルウェー)を抜いてトップに立ちました。記者会見では誰も突っ込みませんでしたが、それはたとえ聞いたとしても、こんな答えが返ってくるのが分かっているからでしょう。

「今の時点での総合順位には何の意味もない。3月になって残り数レースになったら考えてみよう」

2戦連続の3位となったヴィクトール・ムッファ・ジャンデ。ヒルシャーと同じ26歳だが、今季大注目の遅咲きの選手

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