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続報・コスタリッチvs.ヒルシャーの“片反騒動”
FISの裁定で一応の決着。事態は沈静化へ
(2012年1月24日の記事の再録です)

 午後6時からは、チームキャプテンミーティング。いつもはレースに関する連絡事項が中心ですが、今回は冒頭にヒルシャーの片反騒動に関するFIS(国際スキー連盟)の見解が示されました。

「メディアを中心にマルセル・ヒルシャーの旗門不通過が大きく取り沙汰されているが、現在流れている噂や情報には、不確かなもの、事実と異なったものが多いので、我々はそれを訂正しておきたい。そして、ことを必要以上に大げさにしないでいただきたい。とにかくみな冷静にならなければいけない」。

このミーティングの議長役でもあるFISレースディレクターのギュンター・フヤラがまず事態の沈静化を要請。その上で議論の的となっているザグレブとキッツビュールのビデオ映像を、出席した全コーチとメディアに見せ、それぞれのレースでFISが下した判定が正しかったことを主張しました。

 

 コーチたちが車座になってモニター画面を見つめる前で、ビデオの映像を1コマ単位で送ったり戻しながら、フヤラ自ら詳細に説明。映像は、それぞれのレースのホストテレビ局が撮影したもので、残念ながら問題となった箇所はハイスピード撮影(いわゆるウルトラスロー)の範囲外だったために、映像はそれほど鮮明ではありませんでした。したがって、それを通常のスピードで再生すると、ヒルシャーがポールをまたいでいるように見えてしまいます。ところが、コマ送りしながら改めて見てみると、ヒルシャーのスキーは、ザグレブ、キッツビュールの1本目ともに正しく通過していたことが、ほぼ納得できました。これまでのレポートには触れて来ませんでしたが、実はザグレブの レースでは2位となったフェリックス・ノイロイター(ドイツ)の滑りにも同様の疑いがかけられており、彼の映像も今回詳細にチェックされ、その結果正しく通過していることが判明しました。ただし、キッツビュールでのヒルシャーの2本目は明らかに内スキーがポールの内側に入っていることが確認できました。つまり今回問題となっているすべての場面でFISが下した判定が正しかったことが証明されたのです。

シュラドミングのチームキャプテンミーティングの冒頭で事態の沈静化を要請するFISチーフ・レースディレクターのギュンター・フヤラ(右から3人目)

 フヤラのこの試みは、ひとまず成功したようです。その場にはもちろんクロアチアのコーチもいましたが、「何か異議がある方は?」という問いかけに、何も反論はしませんでした。

 

 この映像を見た感想はふたつ。まず、ヒルシャーのスキーがいかにポールの近くを通っているかということに改めて驚かされました。表現としての比喩ではなく、明らかにミリ単位。もうこれ以上は無理というほどギリギリのラインで突っ込んできます。こういう滑りは彼ならずとも、ワールドカップのスラロームならば誰もがやっていることなのでしょうが、ヒルシャーの場合はその頻度が飛び抜けて高いということだと思います。他のレーサーならば、少しはポールから離れたところを通るようなターンでも、彼だけはお構いなしに真っ直ぐ狙う。それが今回の騒動の根本にあるような気がします。

 

そして、そうであるなら、もう肉眼での判定は不可能だなという印象も受けました。この微妙な判定を旗門員が目視でジャッジするのはとても無理でしょう。かといっていちいちビデオ判定をしていたのでは、レースの進行に大きな支障が出ることは明らかです。旗門を正しく通過したかそうでないか、スラロームにおけるもっとも基本的な判断を瞬時に的確に下す手段が、実は存在しないという重大な問題が露呈してしまったといえそうです。その意味で、今後のレース運営はとても難しくなるのではないでしょうか。

 ということで、騒動は予想外に早く終息の方向に進み始めました。ゴシップ誌的には物足りない展開かもしれませんが、スポーツとしては望ましい決着だと思います。ウェンゲンとキッツビュールでの不通過後のゴールに対してヒルシャーにペナルティが与えられるかどうかという問題は残るとしても、ふたりがわだかまりなく明日のナイトレースを戦うことを望みたいと思います。
 

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