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クリストッファーセンVS.ノルウェースキー連盟。その対立の背景にあるもの

November 7, 2016

先日お伝えしたボーディ・ミラーとHEADとの訴訟騒動。その行方についてはまだ明らかになっておらず、依然として先行き不透明です。すでに2016/17シーズンのワールドカップは開幕しましたが、はたして今季中のボーディのカムバックはあるのでしょうか? 仮にレースに復帰するにしても、おそらくダウンヒルとスーパーGに種目を絞るでしょうから、早くても11月末のレイク・ルイーズ(カナダ)、あるいはビーヴァー・クリーク(アメリカ)からになると思われます。

さて、そんな波乱含みのスタートとなった今年の冬ですが、ここに来て新たな訴訟が起こされました。11月1日、昨シーズンのスラローム種目別チャンピオンで、今季は総合優勝の有力な候補としても注目されているヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー)が、ノルウェーのスキー連盟を相手取って裁判を起こしたのです。こちらもスポンサー契約をめぐっての対立が原因で、水面下ではすでに2年以上にわたってバトルを繰り広げてきたようです。

ワールドカップ開幕戦の2日前に行なわれたロシニョール記者会見でのクリストッファーセン。終始にこやかな表情だったのだが

 

 

ことの経緯を簡単に整理すると
● クリストッファーセンは2014/15シーズン以来、レッドブルからの個人的なスポンサードを受けている
一方、ノルウェースキー連盟は、Telenor(主に携帯電話事業をてがける同国最大の通信会社、国営企業)とチームとしてのスポンサー契約を結んでいる。
●したがって、ノルウェーのスキー連盟に所属するアスリートは、全員がヘルメットやキャップ等のヘッドギアにテレノール(Telenor)のロゴをつける義務がある。
● ただし、アクセル・ルンド・スヴィンダールだけは、この契約に縛られることなく個人スポンサー(レッドブル)のロゴをつけることができる。その理由は、スヴィンダールとレッドブルの契約締結がスキー連盟とテレノールの契約締結より早かったから
● レッドブルは、クリストッファーセンに対してトレーニング環境やレース会場へのトランスポート(プライベートジェット?)等、これまで以上の好条件でのサポートを提案。ただしそのためにはクリストッファーセンがヘッドギアにレッドブルのロゴをつけることが不可欠

つまりクリストッファーセンを巡って、彼とノルウェースキー連盟、テレノール、レッドブルの4者の利害関係が交錯。それぞれが主張を譲らないために、事態が複雑化しました。この問題に関してクリストッファーセンとノルウェースキー連盟は、長く話し合いを続けてきましたが、根本的な解決には至らず、とうとう裁判に持ち込まれたわけです。

 

ただし、クリストッファーセンは今年8月、ノルウェースキー連盟に所属する選手は、ヘッドギアにテレノールのロゴを掲出する義務があるという連盟規定に同意するサインをしており、この時点で手続き上は一応の決着を見たはずでした。にもかかわらず、今回クリストッファーセンが裁判に訴えたということに、この問題の根深さがうかがえるといえるでしょう。

 

 ノルウェースキーチームでは、ただひとり特例としてレッドブルのロゴをつけることを許されているアクセル・ルンド・スヴィンダール

 

レッドブルはトップアスリートを積極的にサポートすることで知られる企業です。若者を中心に圧倒的な人気を誇るエナジードリンクRed Bullにスポーツのイメージを重ね合わせる広告戦略で大きく成長してきました。同社のホームページを見ると、スノースポーツだけでも実に106名のトップアスリートとスポンサー契約を結んでいることがわかります。その多くはいわゆるエクストリーム・スポーツの分野から選ばれていますが、同社はオーストリアのザルツブルクに本社を置く企業。もちろんアルペンレースも重要なターゲットであり、アクセル・ルンド・スヴィンダール、リンジー・ヴォン、アレクシー・パントュロー、エリック・ゲイらと契約を結んでいます。前述した通り、クリストッファーセンもレッドブル・アスリートのひとりなのですが、しかし他の選手たちと比べると、その事実はあまり広くは知られていないのではないでしょうか。クリストッファーセン=レッドブル というイメージがイマイチ希薄なのです。それはもちろん、クリストッファーセンがノルウェースキー連盟の規定に縛られ、彼のヘルメットにレッドブルのロゴをつけることができなかったからに他なりません。この状況をレッドブル側の視点から見ると、クリストッファーセンへのスポンサードの費用対効果がうまく上がっていないことを意味します。考えようによっては、レッドブルはよく2年間もこの状況を辛抱してきたものだともいえるでしょう。

 

多くの国のスキー連盟では、選手の収入をより多く確保するためにヘッドウェアに個人スポンサーのロゴ掲出を認めており、これが世界的な趨勢のようです。たとえばマルセル・ヒルシャーのReiffeisen(銀行)ミカエラ・シフリンのBarilla(パスタメーカー)のように、トップレーサーと彼らを支援する企業のイメージがしっかりと結びつき、それぞれにメリットが生じるいわゆるWin-WInの関係を築いているわけです。しかしこうした関係が成り立たないノルウェーの方式は、むしろ特殊な例といえるのです。

 

では、どうしてノルウェーは、世界的な流れに反してこのような規定を設けているのでしょうか? 最大の理由は、テレノールと結んだ大型のスポンサー契約がノルウェースキー連盟の深刻な財政危機を救ったということにあります。
2011年当時、ノルウェーチームはスポンサーが2社しかなく、資金不足からチームの強化が思うように進まなかったという苦しい時期がありました。そこで手を差し延べたのがテレノール。多額の援助を受けることでチームは存続し、それによって選手の成績が上がることでスポンサーも増えるという好循環に転じたのです。2014年の時点ではスポンサー企業が20社に増加。強化資金は約2倍半に増え、財政危機から脱することができました。したがってテレノール対してノルウェースキー連盟は多大な恩義を感じていると同時に、多額の資金を援助してくれる同社は、絶対に手放すことのできないパトロンといっても過言ではありません。所属全選手に対してヘッドウェアへのテレノールのロゴ掲出を義務付けるという同連盟の規定には、このような背景があるわけです。

 

ヘンリック・クリストファーセンのヘルメットには、個人スポンサーのレッドブルではなく、チームスポンサーのテレノールのロゴがつけられている

 

その一方では、アクセル・ルンド・スヴィンダールにだけは規定を適用しませんでした。前述したように彼とレッドブルとの契約は、連盟とテレノールとの包括的契約の締結よりも前に結ばれていたからです。さらに、これは私見ですが、ノルウェースキー連盟は、テレノール同様、スヴィンダールにも恩義を感じているのでしょう。というのは、こうした苦しい時代にエースとして孤軍奮闘し、ワールドカップで多くの勝利とタイトルを獲得したことへの敬意です。テレノールをはじめとするスポンサー企業が連盟に出資した大きな理由として、ワールドカップチャンピオン、アクセル・ルンド・スヴィンダールの存在があったことは間違いありません。スヴィンダールに対するノルウェースキー連盟の“特別扱い”は、単に既得権であるだけでなく、チームに対する多大な貢献への敬意と感謝が含まれていると見ることもできるのではないでしょうか。

 

今回の訴訟においてクリストッファーセンが要求しているのは、スヴィンダールと同等の扱いです。連盟の規定の例外として、レッドブルのロゴをヘルメットにつけてレースを戦うことを許してくれというわけです。
これは、わがままな要求にも思えるかもしれません。いかに将来有望なクリストッファーセンであっても、今すぐ大エース、スヴィンダールと同じように扱えという主張には無理があるだろう、そんな見方も一部にはあるようです。しかし、クリストッファーセンがこう要求するのにも、それなりの理由があります。
それは、彼がワールドカップのスラロームチャンピオンになるまでの過程において、ほとんどスキー連盟の支援を受けてこなかったということです。
「我々は、地元のスキークラブ、家族、そして個人的に支援してくれた身近なスタッフの力で階段を上がってきたのであって、けっしてノルウェースキー連盟のシステムに乗って頂点に上り詰めたのではない」

ヘンリックの父、ラース・クリストッファーセンはこう言っています。(ヘンリックとラースの関係についてはこちらをご覧ください)つまり道は自分たちとその仲間で切り開いてきたという強力な自負が彼らにはあるのです。クリストッファーセンが、世界をめざし厳しいトレーニングやレース転戦に明け暮れていたのは、ちょうどノルウェースキー連盟が資金難に悩み強化が滞っていた時期。そのなかで彼らは自力でトレーニング環境やスポンサーを獲得し、一歩ずつ世界の頂点へと近づいてきたというわけです。レッドブルとの契約もその延長線にあり、ノルウェースキー連盟とテレノールの関係と同様、そこから得られる支援は、彼らをさらに前進させるための大きな原動力となるのです。ヘルメットにはテレノールではなくレッドブルのロゴを張り、ともにレースを戦いたいと願うのは、彼にとっては自然なことといってよいでしょう。

 

 2016/17シーズンのオープニングレース、セルデンのGS第1戦でのヘンリック・クリストファーセン

 

 

こうして考えてみると、それぞれの主張にはどれも説得力のある理由があることがわかります。考えを曲げようとしないのも当然でしょう。それだけに解決への道は混沌としています。利害関係と感情が複雑にもつれ合い、それをときほぐす糸口が見つかりにくい、とてもむずかしい状況だと言わざるを得ません。

しかし、このままでは事態は悪い方向に進みそうです。この対立は、クリストッファーセンに大きな精神的なストレスを与え、その影響は当然レースにおけるパフォーマンスにも及んでいます。去る10月23日に行なわれたジャイアント・スラローム第1戦(セルデン)での彼は、トップから1秒92遅れの8位というやや不本意な成績に終わっています。ゴールでの彼が終始苛立った表情を見せていたのも、単に自分の滑りに対する不満ばかりではなかったのだと、今になって気が付きます。優勝したのが、同じスポンサーを持ち、しかし堂々とレッドブルのロゴをつけることを許されているアレクシー・パントュローだったのも、彼にとっては皮肉なことでした。

クリストッファーセンが、オスロの地方裁判所に訴訟を起こしたのは、この失意のワールドカップ開幕戦から1週間後のことでした。

そして、次週11月13日には、彼のもっとも得意とするスラローム第1戦が行なわれますが、とうとうクリストッファーセンは、このレースを欠場することを表明しました。昨シーズンのチャンピオンが、怪我でもなく病気でもなく、契約上のトラブルが原因で姿を現さないという極めて異例の事態です。ファンにとってはクリストッファーセン不在のスラロームなど、つい先日まで想像もできなかったことでしょう。

残念ながら、2016/17シーズンのワールドカップは、最悪のニュースとともに始まってしまいました。もちろん彼が翻意し、スラローム第1戦のスタート台に立つ可能性もゼロだとはいえませんが、今回の騒動がその滑りに影響することは避けられません。
いずれにしても、現在の状況はWin-Winどころか、誰もが得をしない最悪の事態です。
この裁判の行方がどうなるのか、そしてヘンリック・クリストファーセンはいつワールドカップに戻ってくるのか?
ファンとしては、一刻も早い事態の収拾を望むばかりです。

 

 

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