悪天候が演出した大番狂わせ 男子アルペン・コンバインド第2戦(ウェンゲン)

アルペン・コンバインドはダウンヒル又はスーパーG1本とスラローム1本の合計タイムで争う競技。ダウンヒルは正規の長さより多少短縮されるものの、1日のうちにまったく性格の異なる種目を滑るわけで、技術的に難しいのはもちろん、体力的な負担も大きい。レーサーとしての総合力が問われる種目と言っても良いだろう。だが、ウェンゲンで行なわれた今季アルペン・コンバインド第2戦は、気まぐれな天候に大きく左右され、誰もが想像すらできないような意外な結果となった。優勝はニールス・ヒンターマン(スイス)、2位マクサンス・ムザトン(フランス)、3位フレデリック・ベルトールト(オーストリア)と、表彰台に上った3人はいずれもほとんど無名のアウトサイダーだった。

優勝 ニールス・ヒンターマン(スイス)

2位 マクサンス・ムザトン(フランス)
勝負を分けたのは、午後から行なわれたダウンヒルだった。最初の10人くらいまでは視界も効き、雪も風も弱い状況だったが、スラロームで上位につけた実力者たちが滑る頃には、風雪が強まりさっぱりタイムが伸びない。次々とフィニッシュする選手たちは、不本意な、そしてあまりに不可解なタイムに唖然とした表情を浮かべるしかなかった。 アルペン・コンバインドは先にダウンヒルを行ない、完走した選手全員がスラロームを滑るというのが本来のレギュレーション。2本勝負の技術系種目同様、上位30人のスタート順がひっくり返るフリップ30が適用され、ダウンヒル30位の選手が最初にスラロームを滑り、トップタイムを記録した選手は30番目にスラロームを滑る。しかし、悪天候が予想されるため、ジュリー団は前日の段階でダウンヒルとスラロームの順番を入れ替えことを決定。午前中にスラローム、午後からダウンヒルという逆の順番となった。そしてこの変更が、予想外の勝者を誕生させ、逆に優勝候補たちを下位に沈めたのである。

3位フレデリック・ベルトールト(オーストリア)
ダウンヒルのスタート順はヒンターマンが8番目、ムザトンが3番目、ベルトールト9番目といずれも早かった。つまりチャンスはスラロームで20番以降30位までの選手にしかなかったわけである。 表彰式での3人は、誰もが首を小刻みに横に振り、彼ら自身この事態をよく飲み込めていないことを表現していた。 「いったい何が起こったんだ」 「信じられない」 そんな風に言っているようにも見えた。 優勝したヒンターマンは記者会見で次のように語った。 「多くの幸運に恵まれた。スラロームでは視界は良好だったし、ダウンヒルも同様だ。しかも僕が滑り終わったら、再び雪が降り始め風も強くなった。自分が今ここにいることを理解するのがむずかしい。まだ勝ったという実感がないんだ」 ヒンターマンは22歳の新鋭で、ワールドカップにはパートタイムで参戦中。いわば1軍半ともいうべきポジションだ。ヨーロッパカップでも20位から30位が定位置で、もちろんワールドカップでの上位入賞の経験はない。この日スイスチームからエントリーされた7人のうちアルペン・コンバインドのFISポイントは最下位だったのが彼なのだ。それがいきなりの表彰台。誰もが予想しなかったことであり、本人ですら理解不能なのも無理はないだろう。 そんな事情は2位のムザトンも3位のベルトールトも似たり寄ったり。まさに歴史的な大番狂わせだった。 もちろん、彼らが幸運だったことは間違いない。だが、運に恵まれながら勝利をつかめなかった選手もいたのだから、彼ら3人は今日の結果を誇って良いだろう。

39位須貝龍(チームクレブ)
日本からただひとり出場した須貝龍は、39位に終わった。スラロームで30位以内に入ることを狙っていたものの、トップから4秒80遅れの35位。もし、フリップ30に引っかかっていたら、須貝にも幸運が訪れていたかもしれないが、現在のところは、そこまでの力ははないといいうことだろう。 「シーズン初めに左足首を怪我して出遅れてしまったが、今は滑る分には痛くない。スラロームはミスが響いたし、ダウンヒルはコースに雪が積りまったくスピードが出なかった。もう少しラインを考えるべきだったかもしれない。ただアルペン・コンバインドにはトップ30に入るチャンスがあると思うので、これからも頑張っていきたい」と須貝。チーム力が物を言う高速系種目での孤軍奮闘は、多くの苦労があるに違いないが、何とか突破口を開いて欲しい。