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ハーネンカムDHの勝者は伏兵トーマス・ドレッセン

ワールドカップでもっとも多くの観衆を集めるのがキッツビュールのハーネンカム大会ですが、そのなかでも3日間の大会期間中、もっとも熱狂的な盛り上がりを見せるのがダウンヒルです。正式な観客数はまだわかりませんが、今季も会場は凄まじい数の観客で埋まりました。しばらく続いていた悪天候はようやく一休み。昨夜からの冷え込みでコース下部のコンディションも上々となり、さらにときおり青空ものぞく、まずまずのレース日和となりました。

奇跡的にピントが合ったトーマス・ドレッセン(ドイツ)


まず個人的お話をすると、今日の撮影は大失敗。ポジション選びで冒険しすぎ、見事に外してしまいました。狙ったのは、エアターン気味に飛ぶふたつめのジャンプ。今年のコースセッティングではシュタイルハングと呼ばれる急斜面の難所(STEILHANGというドイツ語自体、急斜面を意味します)に入る手前で、レーサーはいったん飛ばされるのですが、そのジャンプを正面から狙いました。


記憶にある限り、ここでジャンプするようなセッティングは初めてですし、着地後すぐにターンしなければならないため、空中でのアクションも派手めです。きっと迫力あるシーンが撮れるだろうと予想し、ここに決めました。しかし、角度的にどうしても手前にネットが入って邪魔になってしまいます。仕方なく約1時間をかけ、大汗を流しながらコース整備の兵隊さんから借りたスコップで雪を盛り、撮影位置を約1mリフトアップ。これで大丈夫だろうとレースの開始を待ったのですが、全然甘かったようです。

ここは選手にとってライン取りが非常に難しい区間。その前がカルーセル(メリーゴーラウンドの意味)と呼ばれる右への急カーブ。ターン前半は外側が盛り上がったバンク状になっているのに、中盤以降は反対に外側が下がった逆バンクになるというひねくれたターンです。ここを抜けると小さなコブがあって、レーサーは空中に。飛びすぎると遠回りになるので、空中にいる間に身体を左方向に倒す、いわゆるエアターンを決めるわけです。そして着地後すぐに左ターンに入り、あとはシュタイルハングを真っ逆さまに落ちていきます。 というような場面を正面から狙ったわけですが、結果はピンぼけ写真を大量生産するという散々なものでした。

昨日のスーパーGで優勝したアクセル・ルンド・スヴィンダール(ノルウェー)はこんな写真ですし↓


ワールドカップのDH種目別2連覇中のペーター・フィル(イタリア)もこんな有様↓

本当に頭を抱えました。前のターンが難しいため、レーサーが出て来る位置もバラバラですし、手前のネットと重なる選手も多く、狙いが定まりません。結果的に95%のカットがピントが合わずお手上げ状態でした。まあポジション選びを含めてが撮影技術なので、要は写真が下手だったということですね。

ただ、奇跡的に1位から4位までの選手には使えるカットが1コマだけありました。ひとりあたり10コマ程度はシャッターを押しているのですが、使えるのは本当にこの1コマだけでした。九死に一生を得るとは、まさにこのことですね。

2位ベアト・フォイツ(スイス)の写真もネットと重なっている


ギリギリで写った2位ハンネス・ライヒェルト(オーストリア)


さて、レースの方ですが、優勝したのはトーマス・ドレッセン(ドイツ)。ワールドカップ3シーズン目の24歳です。今季のダウンヒル第2戦、ビーヴァー・クリーク(アメリカ)で3位になり初のワールドカップ表彰台。先週のウェンゲンでも5位と上昇の兆しを見せていました。でも、それにしてもハーネンカム・ダウンヒルでいきなりの優勝はびっくりです。 「ゴールしてスクリーンを振り返ったら、グリーンの数字が出ていた。悪い冗談だと思って、もう1度振り返ったんだけど、それでも自分が勝ったなんて信じられなかった」と興奮気味に語るドレッセン。2位のベアト・フォイツ(スイス)に0秒20、距離にして5m69cmの差をつけての優勝です。


しつこいようですが、キッツビュールの「シュトライフ」は世界でもっとも難しいダウンヒルコースです。技術的に難しいだけでなく、勇気と決断力が物をいうコース。ここで勝った選手こそが真のダウンヒル王者と言われるような特別なレースなのです。したがって歴代の優勝者リストには、偉大な選手の名前がずらりと並びます。そしてそのほとんどが経験豊かなベテランになってからの勝利。若者が勢いだけで勝ってしまえるようなコースではないのです。ドレッセン自身が「悪い冗談だと思った」というのは謙遜でも誇張でもないのでしょう。しかも今シーズンはトレーニングランは3日間にわたって予定されていましたが、通しで滑ったのは初日だけ。2日目は悪天候で中止となり、3日目はゴールを上げて短縮コースでのトレーニングランでした。こんな状況ではますます経験豊かなベテランが有利となるはずで、ドレッセンはダークホースのなかのダークホース的な位置。ヨーロッパではスポーツ・ベッティング(スポーツの結果を対象とした合法的な賭け)サイトでは、概ね50倍の掛け率がついていました。

しかし、周囲の(そして本人の)そんな予想に反して、彼の滑りは素晴らしいものでした。ターンもジャンプもライン取りも完璧。ハーネンカムの勝者にふさわしいダウンヒルでした。

ただひとつ幸運があったとすれば、それは彼のスタート順でした。前日のパブリックドローでドレッセンに回ってきたビブは19番。彼の前に引いたハンネス・ライヒェルト(オーストリア)が1番を選んだので、ドレッセンは選択の余地がなく19番スタートに決まったのです。ライヒェルトの意識の中には、おそらくウェンゲンでベアト・フォイツが1番スタートで滑って優勝したことがあったのではないでしょうか。これもアルペンスキー特有の、時の運なのですが、1番スタートのライヒェルトのときは雲の関係でコース上が薄暗く、一方ドレッセンが滑るときには明るい光がコースに差し込んでいました。この視界の差はダウンヒルでは大きく左右するはずで、ドレッセンがあそこまで思い切りアタックできたのは、明るいコースだったからとも言えるでしょう。 「1番スタートを選んでくれたハンネスには感謝する」と、レース後の記者会見での彼は、隣に座るハンネス・ライヒェルトを見ながら冗談ぽく語っていました。

喜びでいっぱいのドレッセン。両隣をおっさん臭いふたりにはさまれると24歳の初々しさが目立った

そうは言っても、この日の彼のダウンヒルに文句のつけようはありません。ゴールで観戦していたフェリックス・ノイロイターは、早速インスタグラムにドレッセントと肩を組んだ写真をアップし、こう書いています。 「マジかよ、@トーマス・ドレッセン!?! 今日、キッツビュールでドイツのスポーツの歴史が変わったぞ!」

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