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第98回全日本選手権を振り返る

第98全日本スキー選手権のアルペン競技は、予想を上回る盛り上がりで終了しました。 3年前から始まった年末の全日本選手権、その改革を強力に推し進めてきた全日本スキー連盟(SAJ)の皆川賢太郎競技本部長は、フェイスブックで次のように総括しています。

まず、現在の全日本選手権がどのような位置づけの試合なのかを理解するためにも、一読ください。


以下引用


12月開催に変え3回目となる『一発選考レース』 一番求めたのは『平等性』、わかりやすい権利付与や滑走順へのハンディをなくす事でした。

初年度は12月開催に対する抵抗感やW杯仕様の氷のコースに苦情だらけ…日本はいつから世界を目指さなくなったのか逆に残念に思えていました。

3年目の全日本選手権を終え、やはり海外組の女子では安藤選手が両種目優勝、男子大回転は石井選手、今季W杯参戦の小山選手が回転で初優勝し強さを見せました。一方で後ろのゼッケンから高校生や大学生がどんどん上位に入るレース展開や初年度には氷のコースに見てられないほど苦戦していた出場者が恐れず滑り降りる姿に全体のレベルが上がった事を確信しました。

やはり人間には有無も言わさず基準を定め、その景色や環境を与える事で、考え、想像し、出来るように時間を使う能力が備わっており、与えた環境が気付けば常識に変わる。また、指導者コーチ陣やメーカー、レースの板を仕上げるサービスマン(スキーを磨く職人)など、彼等のレベルも選手の足を引っ張った初年度から比べれば格段に向上したと感じています。

上記内容はある意味で始める前から想定していた事でもあり、誰かが嫌われ者をやらなきゃ時代は動かない、自画自賛となるが想像した状況になって来た。

レース環境はW杯クラスの常識を植え付けられたが、次なる課題は子供や親御さんが夢を描けるステージ創りである。変な言い方だけど甲子園(野球)は単に国内レベル、駅伝は関東レベル、でも日本国民にとってシンボリックで重要なもの。世界とはかけ離れた物だとしても人生を彩るに値する価値を生んでいる。

世界へ通ずる全日本選手権を知り、次は夢がある、つまり世論からも支持を得る価値作りです。同時期に開催されたスケート全日本選手権はTV等で広く報道され市民権を得ているなか、我々の種目はまだその価値まで至らない。

本質を植え付け、次なる課題は観客動員と拡散力、そこから生まれる選手達への還元が私の次なる仕事になると思います。

何故か、アルペンW杯は多い時で7万人、コースは想像を超える硬さと難易度です。あの場所で戦える選手を作るには幼少期から国内でも感じ取れる場がなければ到底溝は埋まらないからです。

日本人にも本気で世界を目指してほしい。


引用終わり

このようにとても力強く興味深い言葉ですが、ここでは、また違った視点から今年の全日本選手権を振り返ってみたいと思います。 この大会は、2月に行なわれるワールドカップにいがた湯沢苗場大会(以下、苗場大会)への出場権をかけた選考会でもありました。 ただし、苗場大会で行なわれるのは男子ジャイアント・スラロームとスラロームのみ。女子の競技はありません。仮にナショナルチーム以外の選手が勝てば、その時点でナショナルチーム入りできるので大きなメリットとなりますが、すでにナショナルチームに入っている女子選手にとっては、勝ってもその栄誉以外に特別な何かが得られるわけではありませんでした。 実は全日本選手権と同時期に、女子のワールドカップは、リエンツ(オーストリア)でジャイアント・スラロームとスラロームが行なわれていました。つまり全日本選手権出場のために帰国すれば、貴重なワールドカップ出場チャンスを逃すことになるわけです。とくに、スラローム第2戦(キリントン)で自己最高の18位に入賞している安藤麻(日清医療食品)にとっては、その自信と勢いを駆って日本ではなくリエンツに向かいたいという気持ちも強かったことでしょう。全日本選手権で得られるFISポイントはミニマムでも20点。すでに中国のファーイーストカップでGS15.00と20.43。スラロームで17.51と21.02を取っている彼女には、優勝してもFISポイントの面での影響はあまりありません。それよりワールドカップで再び入賞してWCSLのランクを上げるほうが、今後のことを考えればメリットは大きいはず。客観的に見れば、彼女の全日本選手権出場には、そういう背景があったのです。

2レース4本のすべてでベストタイムをマークした安藤麻

にもかかわらず、熟慮の末に彼女はワールドカップではなく全日本選手権出場を選びました。その判断はチームからの指示ではなく、彼女自身に委ねられていたようですが、終わってみれば、ジャイアント・スラローム、スラロームとも力を見せつけての完勝。2レース4本のすべてでベストタイムをマークし、見事に全日本選手権技術系2冠王に輝きました。数字的な収穫は少なかったかもしれませんが、ファンやスポンサー、そして何よりも、同じ舞台で戦った若い選手たちに圧倒的な存在感を示すことができたのは、形には表れない大きな成果だったといえるのではないでしょうか。

圧倒的な存在感で2冠王となった安藤麻。ワールドカップよりも全日本選手権を選んだ判断は実を結んだ

さて、そんな全日本選手権、各レースの上位は次のような結果となりました。

この結果、男子GSは石井智也(ゴールドウインSC)が、男子スラロームは小山陽平(日本体育大学)が2月23日、24日に行なわれるワールドカップ苗場大会への出場権を獲得しました。 と同時に今季開始時点ではナショナルチーム(スノージャパン)のメンバー外だった石井は、年明けから強化指定選手としてナショナルチーム入りすることになりました。

これによって、苗場大会以外のワールドカップにも出場のチャンスが広がったわけです。


このレースで勝たなければ先がなかった石井智也。重圧の中、見事に勝ち切った

練習不足のGSで2位。得意のスラロームでは2位以下に大きな差をつけて優勝した小山陽平


でも、ここで多くの人は疑問に思うのではないでしょうか。 「じゃあ、優勝できなかった選手は誰も苗場大会には出場できないの?」 「世界一難しいと言われるウェンゲン(スイス)のスラロームで2年連続ワールドカップポイントを獲得している大越龍之介は出られないの?」

「前回大会では前走をつとめていた地元苗場出身の若月隼太が選手として出場するのを楽しみにしているんだけどな」

「加藤聖五はセルデンのGS開幕戦に出場したのに、苗場大会には出られないの?」

そんなふうに思っているアルペンファンも多いのではないでしょうか? 結論からいうと、「いや大丈夫、彼らにもまだチャンスは残されています」です。 たしかに、一昨シーズンの平昌オリンピックも、昨シーズンのオーレ世界選手権も、代表の切符を手にしたのは全日本選手権で優勝した石井(GS)、湯浅直樹(スラローム)のひとりずつだけでした。 しかし、今回の苗場大会は自国開催のワールドカップ。開催国は、特別に最大6名まで選手を出場させることができるというFIS(国際スキー連盟)の規定があります。6名の開催国枠は必ずしもすべて使わなくてもよく、何名出場させるかはその国のスキー連盟の裁量に任されていますが、今のところ日本チームは6枠の範囲内でできるだけ多くの選手を出場させる考えのようです。つまり、全日本で勝てなかった選手にも、まだ出場チャンスは残されているのです。では、SAJ(全日本スキー連盟)は、どういう方法で、残りの出場選手を決めるのでしょうか。SAJのホームページを見ると 「2019/2020FISワールドカップ派遣選考基準」という文書があり、そこには次のように書かれています。 「2019/2020シーズンに国内で開催のWC出場選手(男子のみ)は、2019/2020シーズン強化指定選手のうち、下記の①から③のいずれかに該当する選手が選考される。 ※対象選手が出場枠(クォータ)を超過した場合は①②③の順で優先とする。 ①2019/2020シーズン全日本選手権技術系(GS、SL)優勝者 ②2019/2020シーズンのWC・COC・ナショナルチャンピオンシップでの獲得順位、および、レース内容 ③事前に指定するチーム内タイムレースでの獲得順位 要するに今後苗場大会までのレース(ワールドカップ、ヨーロッパカップ等)の結果を見て、6枚ある切符を何枚使い、それが誰の手に渡るかが決まるわけです。 出場選手の発表がいつになるかはわかりませんが、これまでの例では大会の約1週間前ですから今回も2月の半ばのはず。 当WEBマガジンでも、発表され次第記事をアップしますので、それまで楽しみにお待ち待ちください。 ただし、残念ながら長年日本チームのエースとして活躍し、ワールドカップ3位という記録も持つ湯浅直樹の出場はありません。仮に1月以降のレースでどれだけ好成績をあげても「ワールドカップに出場できるのはナショナルチームのメンバーのみ」というSAJの内規があるからです。石井と同様、今季開幕時点でナショナルチームから外れていた湯浅にとって、苗場大会に出場する唯一の道は全日本選手権で優勝することだったのですが、スラローム6位という結果に終わった時点で、その道は絶たれてしまったわけです。

本調子とはほど遠かった湯浅直樹。このターンでも外スキーが流れ気味。次のポールに詰まってしまう苦しい滑りだった


その湯浅直樹。今年の全日本選手権での彼は、残念ながら好調時とはほど遠い滑りでした。1本目、2本目とも精彩を欠き、合計では優勝した小山陽平に約4秒差。完敗を認めざるを得ませんでした。

「自分の滑りは見ていただいた通りです。それよりも新しい世代の成長を嬉しく思います」というのがレース後Jスポーツのインタビューに答えての第一声。そして

「優勝した小山くんとの4秒差をどう詰めていくかと考えると、とても高い壁だと思う。今は自分の身体と滑りがマッチせずすべての動作がバラバラなので、それをもう一度組み立て直さなければならない。それにはもう少し時間がかかると思います」と続けた。現在の体調については

「6,7年ぶりくらいに身体のどこにも痛みを感じずに滑っています。膝も腰もどこも痛くないので、今はスキーがとても楽しい。長い間お世話になってまるでラムネをボリボリ食べるように飲んでいたボルタレン(痛み止めの薬)とも、やっとおさらばすることができました。」と説明する一方、

「ただ、今はちょっと筋肉が落ちている状態なので、滑れる筋力を取り戻してから、その筋力をうまく伝えられるポジション確認などを今後しっかりやっていきたいと思います」と率直に吐露。最後に

「今年はボロ負け。でもこれ以上落ちることはないので、ここから不死鳥のように再浮上していきます」と復活への意欲を語りました。

秋からスキーを再開し、北欧、中国とトレーニングを続けてきた湯浅、当初は出場も予定していた中国でのファーイーストカップの参戦を回避。全日本選手権のスラロームが、彼にとっての今シーズンの初レースでした。彼自身認めているように、その滑りからは力強さが感じられず、撮影した写真をチェックしてもこれまでは見られなかったようなカットが多いのも事実。いずれにしても調整不足という印象は否めませんでした。

関係者の話を総合すると、現在身体のどこにも痛みを感じずに滑れているのは、秋の一時期にトレーニング、とくに筋力的なトレーニングを控えていたからで、逆に言えば、トレーニングを続けていけば、やはり古傷を抱える膝や腰に負担が出てきてしまうのが、調整の難しさを生んでいるようです。シーズン後半に向けて立て直しを誓った湯浅ですが、果たしてどこまで調子を戻せるのか、その道のりは厳しいでしょうが、これまで数々の逆境を乗り越えてきた彼の底力に期待したいと思います。


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