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ヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー/ロシニョール)
ワールドカップ湯沢・苗場大会直前インタビュー

―― 今日(2月10日)のトレーニングはどうだった?

ヘンリック・クリストッファーセン(以下HK) 最高だった。雪が降っていたし風も強かったけれど、そんなのは問題ではなかった。地元のスキークラブの人たちが手伝ってくれて、大量に積もった新しい雪を みんなどけてくれた。他の場所で合宿している他のチームは、みんな練習が中止となった聞いているので、本当に感謝している。
 
―― こんな悪条件でも練習するのがノルウェーチームの強さの理由かな?

HK そう思う。子ども頃から天気が悪くて練習を休んだことはあまりない。もちろん危険なときには滑らないけどね。でも、レースはいろいろな条件のなかでやるわけだから。
 
―― それが、アタッキング・ヴァイキング(ノルウェーチームの別名)のスタイル?

 

HK そうだと思うね。

 

―― ところで、報道では足を疲労骨折したということだけど?

 

HK いや、それは大丈夫。左脚の腓骨なんだけど、疲労骨折ではなく疲労骨折に至る前の、ごくごく初期の段階。MRIを撮って検査したけど、大きな問題ではない。
 
―― 痛みは?

 

HK ときどき、少し痛む。昨日は全然何ともなかったけれど、今日は少し痛むよ。異常を感じたのは3カ月くらい前だけど、いずれにしても滑りには影響していない。レースになれば、そんなのは忘れてしまうからね。
 
―― 
今シーズンの君は、スラローム7戦中6勝。素晴らしい活躍だ。

 

HK ありがとう。自分自身でも驚いている。シーズンに入る前に立てた目標は、すべてのレースでトップ5に入ること、とにかく1回でも多く表彰台に立つことだっ たんだ。そしてチャンスがあれば優勝したいなと。だから今年の成績はまったく予想以上だ。なんて言えばいいんだろう? とにかくアメイジングだ。この調子 を最後まで保てるように頑張るよ。

 

―― 今シーズンは、君とマルセル・ヒルシャーがいつも激しいバトルを展開している。毎レースが本当にスリリングで、見ていてとっても楽しいよ。

 

HK そうだね。いつもタフな戦いになる。マルセルがアウトしたウェンゲン以外は、いつもふたりで1位と2位だからね。シュラドミングで、彼は1本目で大きく出 遅れて、今日は大丈夫かなと思ったけど(笑)、でも彼は2本目にびっくりするような滑りをして、結局2位になった。信じられないよね。彼は間違いなく世界 ナンバー1のレーサーだし、無敵の存在。そんな彼と対等に戦えて、しかも勝つことができるなんて、自分でも素晴らしい経験をしていると思う。

練習後の貴重な休憩時間でのインタビュー。すべての質問に丁寧に答えてくれた

ワールドカップ総合優勝は究極の目標
 
―― 君の目標について聞きたいんだけど。

 

HK それは今シーズン? それとも将来的にということ?
 
―― 将来的に何を目指している?

 

HK それはもちろんワールドカップの総合優勝だ。すべてのアルペンスキーヤーにとって最高の目標だと思う。もちろんオリンピックの金メダルも重要だけど、オリ ンピックはたった1日、その日に速かった選手が勝つ。一方、総合優勝のタイトルは何ヶ月も戦って、そのなかで一番強い選手がタイトルを獲得する。そういう意味で、究極の目標だ。たとえば今シーズンのワールドカップは全部で40レース以上あるけれど、僕はそのうちの半分しか戦っていない。技術系のレーサー で、スラロームとGSにしか出場していないからね。そのなかで総合優勝のタイトルを取るということはとても難しいだろうが、僕にとってはそれが最終的なゴールだ。

 

―― 種目のことで言うと、誰もがこう思っているよ。「クリストッファーセンはスーパーGはやらないのか?」って。

 

HK そうだね。たしかに、みんながそのことについて聞きたがっているみたいだ(笑)。
 
―― でも、ときどきは練習しているでしょ? アクセル(アクセル・ルンド・スヴィンダール)やチェティル(チェティル・ヤンスルッド)と一緒に、スーパーGのゲートを滑っているシーンをテレビで見たよ。

 

HK あのときは、1日だけ彼らと一緒にスーパーGの練習をした。去年の夏は南米でトレーニングをしたんだけど、そのときは2日間だけスーパーGをやった。じゃあ、レースに出るのかと聞かれても、まだ何とも言えない。少なくとも2月末のヒンターシュトーダーには出ないし、クヴィットフェルのスーパーGにも出ないよ。ただ、もし今シーズンの終盤になって、ワールドカップの総合でマルセルに勝つチャンスが出てくれば、最終戦のスーパーGには出るかどうか考えようと思っている。May be、あくまでMay beだけどね。
 
―― May be……?

HK だって、今焦ってスーパーGに出て、ポイントを何点か取っても、かわりに失うものの方が大きいと思うから。でも、来シーズンはどうだろう? スーパーGにも出るかもしれないな。

 

そうなんだ。じゃあ、楽しみに待っているよ。次にノルウェーチームについて少し聞きたい。今シーズンのノルウェーは、とても強い。残念ながらアクセルは怪我をしてしまったけれど、男子だけでなく、女子でもニナ・ロゼットもワールドカップ初優勝。何が強さの秘密なのかな?

 

HK そうだね、ニナの優勝はびっくりしたけど、とにかく今の僕たちはとても強い。アクセルが7勝、僕が6勝、チェティルが3勝。それにアレキサンダー(アレキ サンダー・オーモット・キルデ)もガルミッシュのダウンヒルで初優勝。それ以外でもみんなが頑張っている。ノルウェーの歴史の中でももっとも成功したシーズンだと思うよ。でも何が強さの理由? それはよくわからないけど、やっぱりたくさん滑ってたくさん練習するからじゃないかな。

 

―― 今シーズンは天候不順もあって、GSが2レースもキャンセルされてしまった。だから12月のアルタ・バディア以降、まったくGSレースが行なわれていないわけだけど、その影響はないかな?

 

HK 僕自身にとっては、あんまり影響はない。GSがなくても1月はスラロームがたくさんあったからね。だからレースの感覚は常に保っている。でもワールドカップ全体で言えば、アデルボーデンはシーズン中もっとも重要なGSレースだし、ガルミッシュも同様だ。そのふたつがキャンセルされたのはとても残念なことだと思う。

父親のラース・クリストッファーセン。今季はほぼすべてのレースでチームに帯同した

―― 君の父さんのラース・クリストッファーセンについて聞きたいんだけど、今シーズンはチームに帯同して、君と一緒にワールドカップを戦っているよね。

 

HK そうだ。でも今シーズン、たったひとつだけ父さんがいなかったレースがサンタ・カテリーナで、僕が唯一勝てなかったスラローム(笑)。つまり彼は 僕のスキーにおいて、それくらい大きな存在だ。たとえば、スタート前にはいつも電話か無線で話しをするんだけど、父さんと話すとやっぱり気持ちが落ち着く。僕はまだ21歳で、ワールドカップを戦うにはまだ人間的に未熟だから、そのへんを彼がサポートしてくれている。たとえばスポンサーのこと、たとえばメディアへの対応のこと。そういう対外的なことに父さんが対応してくれるので、僕はスキーに専念できている。そういう意味で、彼がチームにいてくれることはとても大きい。そしてもちろん、父さんは僕のコーチでもある。ふつうナショナルチームではカテゴリーが上るにつれて、コーチも変わる。それは選手にとって、必ずしも良いことだけではない。教え方が違ったり、人間的に合う合わないもあるからね。その点、父さんは僕がいくつになっても父さんだ。これは変えようがない。

 

―― 父親がコーチで、チームと一緒に行動しているという点では、マルセル・ヒルシャーとフェルディナンド・ヒルシャーも同じだ。でも君の父さんは、ヒルシャーの父さんとはだいぶタイプが違うようだね。フェルディナンドはいつもどっしりと構えて、ちょっと怖い感じだけど、君の父さんは、いつもとても忙しく動き回っている。

 

HK 本当にそうだね。今日も一所懸命に雪かきをしてくれていた。一番良く働いていたかもしれない(笑)

 

―― 彼はアルペンレーサーだったの?

 

HK そうだ。でもそれほど高いレベルのレーサーではなく、17歳くらいのときに競技はやめた。それからは子どもたちにスキーを教えるようになって、地元のスキークラブでコーチとして働いていた。その後、僕が生まれて、僕にスキーのすべてを教えるようになったんだ。

シュラドミングのナイトスラローム。ヒルシャーとコロシロフの追撃を振りきって今季6勝目

―― 今、君はラムサウ(シュラドミングと向かい合う山)に住んでいるんだね。

 

HK ノルウェーチームのヘッドコーチ、クリスチャン・ミッターの両親が持っているゲストハウスがラムサウにあって、それを借りている。静かでとてもいいところだよ。でも、今シーズンが終わったら、サルツブルクにアパート(日本で言うマンション)を買うんだ。おそらく、今後10年間はそこに住むことになると思う。ノル ウェーに帰るにも便利だし、サルツブルクはレッドブルの本拠地でもあるので、レッドブルと契約しているたくさんのアスリートがいる。とても刺激的だと思うよ。それにトレーニングのベースとしているライターアルムからも遠くない。いろいろな意味でパーフェクトな環境なんだ。
 
―― ラムサウにはアレキサンダー・コロシロフも住んでいるよね。近所同士ということで特別な付き合いはある?

 

HK そういう付き合いはない。ノルウェーとロシアはカルチャーが少し違うんだ。日本とノルウェーは意外に近い気がするけどね。でも彼はとてもいい人だよ。いつもつまらなそうな顔をして(笑)、感情を表に出さないけど、よくよく話をしてみると、子猫みたいに優しい(笑)。

 

―― 一緒にトレーニングすることはある?

 

HK うん、ライターアルムで時々一緒に滑ることはある。彼のようなスキーヤーと練習するのは、自分をさらに高めるためにとても良い機会だ。コロシロフともマルセルともときどき練習するけれど、すごく刺激的だね。

 

―― 今年のシュラドミングで表彰台にあがった3人(クリストッファーセン、ヒルシャー、コロシロフ)はみんなご近所さんだね。でもそのなかで君の住んでいるとことが、一番シュラドミングに近かったわけだ。

 

HK そういうことになるね。僕の家からは車で15分位だし、マルセルの住んでいるアナベルクは30分位。でも、マルセルも今年の春か夏にはサルツブルクに引っ越すんだよ。
 
―― 本当? じゃあ、いよいよあの彼女と結婚するのかな?

 

HK それはわからない。それは僕には何ともいえないけど、どうかな? 
 
―― 最後に、ロシニョールスキーとの関係について聞きたい。何歳の頃からロシニョールを使っている?

 

HK ええと、8歳の時かな。だからもう13年くらいになるね。今シーズン、セルデンの開幕戦の前に新しく契約を更改して、2018年までロシニョールを使うことにした。おそらくその後も続けると思うけど、今のところは100%満足している。サービスマンのユールも最高だしね。彼はオリンピックを8回も経験している大ベテランで、スキーの事なら何でも知っているから、任せておけばどんなときでも大丈夫だ。

 

―― ロシニョールはジュニアプログラムが充実していることでも知られているけれど、君もそのなかで強くなってきたのかな?

 

HK そのとおり。まさにそのとおりだね。どの年代のときでもしっかり支えてもらった。僕の考えでは、若いレーサーにとって、マテリアルはあまり重要な要素ではない。でも成長してレベルが上れば上るほど、マテリアルが占める割合がどんどん大きくなっていく。今、僕がここにいるのも、ロシニョールとの信頼関係があるからこそだと思う。

 

―― 聞きたいことはまだまだあるんだけど、もう時間だね。苗場のレースでの活躍を楽しみにしているよ。きょうはどうもありがとう。

(2016年2月10日 長野県・奥志賀高原「ホテル・グランフェニックス」にて収録 聞き手:田草川嘉雄)

 

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