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異例ずくめのハーネンカム・スーパーG

 キッツビュールで行なわれている第78回ハーネンカム大会は、いよいよ今日からレースが始まりました。初日の競技はスーパーG。今季のワールドカップではスーパーG第4戦となります。 チロル地方は週のはじめからぱっとしない天候が続いていましたが、この日も依然として悪天候。キッツビュールの街中ではみぞれ混じりの湿った雪が、そしてコース上部では30〜40cmほどの新雪が積もり、コースはその下にすっぽりと埋もれてしまいました。しかし、これだけの悪条件にも関わらずレースはきっちりと行なわれ、大きなアクシデントもなく完了。勝つべき選手が勝ち、途中、深い霧が立ち込め競技が中断する場面もありましたが、最後までコントロールされた見事なレース運営でした。  キッツビュールでスーパーGがレギュラー開催されるようになったのは2000年からですが、20年近いその歴史の中で、今回は、コンディション的にもっとも危機的な状況だったといえるでしょう。単に天候が荒れただけでなく、気温の上昇と湿った降雪のためにコースが軟化。とくにハウスベルクカンてから下、つまりゴールから見上げるコース終盤の最大の見せ場の部分がグズグズになリ、選手の安全性が保てなくなったからです。


優勝したアクセル・ルンド・スヴィンダール(ノルウェー)

 この日も朝から暖かく、キッツビュールの街ではプラス1度。気温がマイナスになるのはハウスベルクカンテから上という状況でした。したがって、この部分を選手に滑らせるわけには行きません。加えて上部も大量の降雪があり、前日から夜を徹しての排雪作業が続いてたものの、レース開始予定の午前11時半には、とても間に合う状況ではありませんでした。 「判断はとても難しかった。今日をShort Dayにするか、それともLong Dayにするべきなのか。考えに考えた末にLong Dayにすることにした」と大会の組織委員長、ミヒャエル・フーバーは言いました。Short Dayとは、早朝の段階であっさりとスーパーGの開催を諦めること。無駄に終わるかもしれないエネルギーは使わず、その分を翌日のダウンヒルの準備に当てようという選択です。そしてLong Dayとは、あらゆる策とあらゆる努力を尽くして、何としてでもスーパーGのレースを実行しようとすることを意味します。ハーネンカム大会組織委員会は後者を選びました。そして、すべての大会関係者のLong Dayが始まり、見事に実を結んだのです。

もちろんそれは簡単なことではありませんでした。悪天候のためにレース開催が困難な場合、通常ならスタート位置を下げて行ないます。たいていの場合、風雪は標高の高いところほど強いからです。ところが、今回はコース下部の状況が悪いという異例のケース。窮余の策としてゴール地点を上に移動するという大変な作業を行ないました。ただし、それだけではコースの見どころ短くなるばかりではなく、ターン技術とスピードを競うスーパーG本来の魅力が失われてしまいます。そこで、スタート地点をダウンヒルのスタート直下にまで上げ、全長と標高差を確保。これによってふだんのスーパーGでは使わないシュタイルハング、アルテシュナイゼと呼ばれる難関の急斜面が含まれることになりました。したがって、短縮コースでのレースどころかむしろスケールアップ。昨年のスーパーGよりもタイムにして20秒近くも長いタフでハードなコースで競われれたのです。


キッツビュールのスーパーGでこのマウスファーレが使われたのは初めて


 この日のコースセッターは、USチームのベテランコーチ・ジョナサン・マクブライドでした。組織委員会からは「ダウンヒルコースを保全するため、できるだけダウンヒルのラインと重ならないようなコースセット」という難しい要求をされていましたが、マクブライドはその難題に見事に応え、絶妙のコースをセット。技術的にも雪質的にも難しかったにも関わらず、深刻なクラッシュのないクリーンなレースを演出しました。  このように、さすがキッツビュール、さすがハーネンカム大会としか言いようのない、素晴らしい運営でしたが、ただ残念だったのは、前述したようにゴール地点が上ったため観客にとっての最大の見せ場がカットされてしまったことです。それでもゴールエリアに設置された巨大スクリーンで選手の滑りを見ることができ、さらには上部のゴールでレースを終えた選手たちが、ハウスベルクカンテからゴールまでをフリースキーで滑り降りるという粋な演出もあり、充分にカバーされたのではないでしょうか。 レースの方は、ノルウェーの最強コンビ、アクセル・ルンド・スヴィンダールとチェティル・ヤンスルッドが1位2位を占めました。本来はアレクサンダー・オーモット・キルデを含めた最強トリオを構成するのですが、キルデは風邪のために振るわず12位。3位にはマティアス・マイヤーが入って地元オーストリアは辛うじて面目を保ちました。

2位のチェティル・ヤンスルッド(ノルウェー)

3位マティアス・マイヤー(オーストリア)

 スヴィンダールは2年前のハーネンカムダウンヒルでハウスベルクカンテの大ジャンプの着地直後にバランスを崩し、そのままアウト側のネットに突き刺さるという壮絶なクラッシュ。右膝の前十字靭帯を切断する重傷を負っています。昨年はその影響もあって、いったんはレースに復帰したものの、状態が思わしくなく再手術を受けてシーズン終了。したがってキッツビュールを滑るのは負傷したレース以来2年ぶりだったわけです。そのキッツビュール復帰レースで見事に優勝。 ファンたちは「Well Come Back」と書かれたボードを掲げ、彼の勝利を称えました。

そう言えば、スヴィンダールはかつて同じように重傷を負ったビーヴァー・クリークでも、復帰最初のレースで優勝するという見事な復活劇を演じています。怪我の記憶に打ち勝つ強靭な精神力には改めて感服します。 蛇足ですが、この日コルチナ・ダンペッツォ(イタリア)で行なわれていた女子のスーパーGでは、スヴィンダールのかつての恋人、ジュリア・マンキューゾ(アメリカ)が引退。現役最後のレースをワンダーウーマンのコスチュームで滑りファンにサヨナラを告げています。







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