

真冬の夜の 夢のようなレース
約5万人の大観衆でふくれあがったシュラドミングのスラローム。The Night Raceと呼ばれ、ワールドカップでもっとも熱狂的に盛り上がるスラロームレースだ。観客が盛り上がれば、レーサーも燃える。過去数々の名勝負が繰り広げられてきたナイトレースは、今年もとてもスリリングな展開だった。 それまで暫定1位のダニエル・ユール(スイス)に1秒以上の差をつけて2本目のゴールに入った瞬間、ヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー)は大きな声で吠えた。肩をいからせ、目尻を釣り上げ、口を大きく開けて何やら吠えていた。トップに立ったから? でもそれにしては様子がおかしい。それまでのベストタイムを1秒以上も上回ったのに、喜ぶというよりむしろ怒っているようだ。そして左手で雪をすくうと、それを選手やスタッフたちのいるチームエリアに向かって放り投げ、すごい剣幕で叫んだ。投げた先にはオーストリアスキー連盟会長のペーター・シュレックスナデルと、スポーツディレクター、ハンス・プムがいた。突然のことに、何が起こったのか事態をのみこめないシュレックスナデルは、肩をすぼめるばか


クリストッファーセン ついにヒルシャーを破る!
前日の夕方からふたたび降り始めた雪は、朝になっても勢いを増すばかり。今年のハーネンカム大会最後の種目スラロームは、タフな気象条件のなかで行なわれました。
早朝の時点で積雪はすでに30cm超。それでも夜を徹したコース整備によってキッツビュールのスラロームコース「ガンスラン」は雪の下から掘り出されました。ただ、一見アイスバーンに見える斜面も、降り積もった大量の湿った雪のために、氷の層はあまり厚くはなく、レースが進むにしたがって表面が割れてきました。したがって遅いスタート順の選手には厳しい条件となり、50番スタートの大越龍之介(東急リゾートサービス)68番スタートの石井智也(ゴールドウインSC)はともに1本目で終了。大越はベストタイムのヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー)から5秒15遅れの49位に沈み、石井は第1計時を通過した後、夏道が横切る部分のウェーブで飛ばされコースアウトです。 いろいろなことを考え、力みすぎたという大越龍之介。五輪への挑戦は終わった 大越はこのレースで20位以内に入ると平昌五輪出場への可能性が大きかったのですが、それ


ふたたびの挑戦-石井智也
アルペンレースを取材していると、どんなシーズンでも嬉しいニュースと残念なニュースがあります。たとえば昨シーズンならば湯浅直樹(スポーツアルペンSC)の復活という明るい話題がありました。ヴァル・ディゼール(フランス)で4年ぶりの10位以内をとなると、マドンナ・ディ・カンピリオ(イタリア)で8位、シュラドミングで7位と立て続けに入賞。アスペンでのワールドカップ最終戦では第1シードで滑るほどの復活ぶりでした。
しかし、今季はふたたび調子を落とし、これまでのところノーポイントと振るいません。骨挫傷と診断された左膝の状態が思わしくなく、ワールドカップを離れて緊急帰国。1ヵ月後に迫っている平昌五輪に暗雲が立ち込めています。 その一方で、大越龍之介(東急リゾートサービス)がウェンゲンのスラロームで19位に入賞という明るいニュースも飛び込んできました。彼にとっては初のワールドカップ・ポイントを獲得し、平昌五輪の代表権獲得に一気に近づいたわけです。仮に五輪チケットを逃したとしても、50番スタートからのワールドカップ19位は、充分に快挙と言ってよいでしょう。 そし


ハーネンカムDHの勝者は伏兵トーマス・ドレッセン
ワールドカップでもっとも多くの観衆を集めるのがキッツビュールのハーネンカム大会ですが、そのなかでも3日間の大会期間中、もっとも熱狂的な盛り上がりを見せるのがダウンヒルです。正式な観客数はまだわかりませんが、今季も会場は凄まじい数の観客で埋まりました。しばらく続いていた悪天候はようやく一休み。昨夜からの冷え込みでコース下部のコンディションも上々となり、さらにときおり青空ものぞく、まずまずのレース日和となりました。 奇跡的にピントが合ったトーマス・ドレッセン(ドイツ) まず個人的お話をすると、今日の撮影は大失敗。ポジション選びで冒険しすぎ、見事に外してしまいました。狙ったのは、エアターン気味に飛ぶふたつめのジャンプ。今年のコースセッティングではシュタイルハングと呼ばれる急斜面の難所(STEILHANGというドイツ語自体、急斜面を意味します)に入る手前で、レーサーはいったん飛ばされるのですが、そのジャンプを正面から狙いました。 記憶にある限り、ここでジャンプするようなセッティングは初めてですし、着地後すぐにターンしなければならないため、空中でのアクショ


異例ずくめのハーネンカム・スーパーG
キッツビュールで行なわれている第78回ハーネンカム大会は、いよいよ今日からレースが始まりました。初日の競技はスーパーG。今季のワールドカップではスーパーG第4戦となります。
チロル地方は週のはじめからぱっとしない天候が続いていましたが、この日も依然として悪天候。キッツビュールの街中ではみぞれ混じりの湿った雪が、そしてコース上部では30〜40cmほどの新雪が積もり、コースはその下にすっぽりと埋もれてしまいました。しかし、これだけの悪条件にも関わらずレースはきっちりと行なわれ、大きなアクシデントもなく完了。勝つべき選手が勝ち、途中、深い霧が立ち込め競技が中断する場面もありましたが、最後までコントロールされた見事なレース運営でした。
キッツビュールでスーパーGがレギュラー開催されるようになったのは2000年からですが、20年近いその歴史の中で、今回は、コンディション的にもっとも危機的な状況だったといえるでしょう。単に天候が荒れただけでなく、気温の上昇と湿った降雪のためにコースが軟化。とくにハウスベルクカンてから下、つまりゴールから見上げるコース終


優勝候補たちは死んだふり? ハーネンカムDH第2トレーニングラン
1日半降り続いた雪がようやく止み、今日のキッツビュールはダウンヒルのトレーニングランが行なわれました。ただし、湿った雪が大量に積もったため、とくにコース下部のコンディションが悪化。前日の段階で、すでに「プランB」として検討されていた短縮コースでのトレーニングランとなりました。具体的には、ゴールをオーバーハウスベルクという地点にまで上げての実施。距離にすると837m、標高差で280m、タイムでは約30秒がカットされました。 マッテオ・マルサーリア(イタリア) ベストタイムを記録したのはマッテオ・マルサーリア(イタリア)。54番というスタート順が示すとおり、ほとんどノーマークの選手です。ただ6年前にはスーパーGで優勝1回2位2回を記録している実力者。怪我のために昨シーズンを丸々棒に振るという苦い経験を経てワールドカップに復帰。遅いスタート順から再び頂点をめざしています。短縮コースでのトレーニングランなので、今日の成績がそのままレースに反映されることはあまり考えにくいのですが、正規のコースで行なわれた2日前の第1トレーニングでも3位のタイムをマークして


ヨーロッパカップGSとハーネンカムDHのトレーニングラン
昨日は、キッツビュールのお隣、キルヒベルクで行なわれたヨーロッパカップ男子GSを見に行きました。カリッカリに凍った約1分20秒のコース。長く変化に富み、しかもハイスピードなコースセットということもあり、ワールドカップと遜色のないとてもタフなレースでした。日曜月曜での2連戦で、日本からは石井智也(ゴールドウインSC)が出場しました。平昌五輪出場がほぼ決まっている石井選手ですが、日本での事前手続きがありヨーロッパに到着したのは土曜日夕方。しかも荷物が届いたのは深夜とあって、日曜日のレースはかなりつらかったことでしょう。私が行った月曜日のレースは1本目95番という遅いスタートで滑り、途中棄権。結果は残せませんでしたが、しっかりと手応えのあるレースだったといいます。 レース後は、彼がヨーロッパでの拠点としているインスブルック郊外のアパートを訪ね、ゆっくりと話しをすることができました。その内容は近いうちに改めて発表できると思います。 そして今日からはキッツビュールでハーネンカム大会がスタートし、ダウンヒルのトレーニングランが行なわれました。撮影ポイントは、


バンピーな高速スーパーGを制したのはGS巧者のF・ブリニョーネ
どうにもこうにも天気が良くならないバート・クラインキルヒハイム。今日は本来ならば女子のダウンヒル第3戦の予定でしたが、昨日までにトレーニングランが1本もまともに消化できていないので、ルールによってレースができません。昨日はダウンヒルのスタート地点からスーパーGのスタート地点までの40秒足らずのトレーニング。その下はコースコンディション不良のために選手の安全が確保できず、コース上部のみの区間トレーニングとなりました。ダウンヒルでは少なくとも1本のトレーニングランが義務付けられているので、このままではレースの実行が不可能。そこで日曜に予定されていたスーパーGを土曜日に開催し、レース終了後に残りの区間のトレーニングを行なうことでトレーニングラン成立とみなすという窮余の策です。 優勝:フェデリカ・ブリニョーネ(イタリア) そういうわけで、1日前倒し開催となった女子スーパーG第5戦。平均スピードが時速90kmを超える、女子のスーパーGとしてはかなり高速のコースセッティングでした。当然、ダウンヒルを得意とする選手が有利と思われましたが、優勝したのは意外にもフ


フラッハウの女子ナイトスラローム。シルトを逆転し シフリンがスラローム7連勝
1月9日に行なわれたワールドカップ女子スラローム第8戦の舞台は、オーストリアのフラッハウ。サルツブルクから約1時間と比較的便利な場所にあり、あのヘルマン・マイヤーの出身地としても知られるスキー場です。もっともスケールは中規模で、1990年代からワールドカップの会場に使われるようになりましたが、レギュラー会場とまではいかず、数年に1度開催する程度という状態が長く続いてきました。それが2010年に女子のスラローム会場として名乗りをあげてからは、毎年開催が定着。火曜日の夕方から始まるナイトレースというフォーマットが受け、女子のワールドカップのなかでも一二を争う人気イベントとなりました。男子のナイトスラロームに5万人の大観衆が集まるシュラドミングは、ここから約30分の距離にありますが、男子のシュラドミングに対し女子のフラッハウという図式が、すっかり定着したといってよいでしょう。 火曜の夜に2万人が集まるフラッハウ。女子のワールドカップでは有数の人気イベントだ フラッハウのここ数年の観客数は約2万人。日が暮れるとともに、山あいの小さな村にたくさんの人たちが