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ヴァル・ディゼールGSはヒルシャーがクリストッファーセンを抑え通算60勝目

 前日の夕方から降り始めた雪は、明け方にかけて激しさを増し、さらに強風も吹き荒れる悪コンディション。本来のスタートハウスは、夜中のうちに吹き飛ばされてしまったため、レースはスタート位置を下げて行なわれました。レース前のアップもフリースキーのみ。視界はそれほど悪くはないものの、白くぼやけたフラットな光線のために、雪面の様子をつかみにくい状況でした、少しでも見やすようにと、昼間にもかかわらず照明を灯してのレースです。

 結果的には改めてマルセル・ヒルシャー(オーストリア)の強さを思い知らされる展開でした。1本目1番スタートのヒルシャーのタイムを、他の78選手は誰一人抜くことができず、もっとも近づいたジャン・クラニエツ(スロヴェニア)でさえ0秒71差。3位マッツ・オルソン(スウェーデン)とは0秒99のタイム差がつきました。前半部で細かいミスを重ねたというヘンリック・クリストッファーセン(ノルウェー)は、ヒルシャーに対して1秒20を失って4位でフィニッシュ。通常よりも10秒から15秒短い短縮コースでのレースだということを考えると、なおさらタイム差は重くのしかかってきます。レース後のクリストっファーセンは 「マルセルの完璧な滑りに対して、自分があんな滑りをしていたのでは、1本目の時点で優勝は諦めなければならなかった」と語りました。

ヒルシャーの特徴がもっとも生きるコース。ヴァル・ディゼールでは5度目の優勝だ

2本目は、最終30番目に滑ったヒルシャーが、すべての選手のタイムを飛び越え、リードをさらに広げる圧巻の滑り。大量リードにも関わらず、守ろうとか抑えようという気は微塵も感じさせない鬼気迫るアタックでした。これでレヴィのスラロームに続く今季2勝目。ワールドカップ通算では60勝目となる勝利です。先週の日曜日にビーヴァー・クリークでGS第1戦を終えたばかり。大陸間を移動しての厳しい日程でしたが、周到な準備を積んで臨んだレースでした。 「この数日間のチームスタッフの協力に感謝したい。最高の準備のおかげで最高の結果につながった」。会場での勝利者インタビューで、彼はこう応えていました。 通称「ベルヴァルドの壁」と呼ばれるこのコースの難しさは、斜面変化の複雑さにあります。ゴールからほとんどが見渡せ、一見すると急斜面の一枚バーンですが、実際にはコースはいたるところでねじれたり、うねったりしています。選手はそんな変化に対応するのに手一杯で、多くのGSコースで見られる、伸びやかにスキーを走らせていくような部分はほとんどありません。テレビ画面でも、そんな「忙しいGS」の雰囲気は伝わったのではないでしょうか。 「ここは、ワールドカップでももっとも難しいGSコースのひとつだ。今までで1度も完璧に滑れたことはない」とヒルシャー。でもヴァル・ディゼールGSでの彼の優勝はこれが5回目。振り返れば彼のワールドカップ初優勝も2009年12月のこのレースでした。 「ここで勝つためのキーポイントは、高いラインをキープすること。その一方で、できるだけスキーの走りたいように走らせなければならない。難しいのは、そのふたつの要素をどうバランスさせるかだと思う」 この日のヒルシャーの2本の滑りは、まさにそれを体現したものだったといえるでしょう。

クリストッファーセンは今季2度目の2位。またしてもヒルシャーに抑えられた

 1本目4位のクリストッファーセンは、2本目に2位に浮上。逆に2位だったクラニエツは9位に後退して表彰台に上がるチャンスを失いました。2本目スタート直後、最初の凸でスキーが飛ばされ、そこで失ったリズムを最後まで取り戻すことができなかったことが響きました。  3位はマッツ・オルソンが入り自身4度目の表彰台です。昨シーズンはアルタ・バディアのパラレルGSで優勝。クリストッファーセンを決勝で破ってのワールドカップ初優勝です。通常のGSでは、2位が最高位。ヒルシャーの牙城は強固ですが、今後は優勝候補のひとりとして注目したい選手といえるでしょう。  クリストッファーセンは、これが通算16回めのワールドカップ2位。そのうち実に13回がヒルシャーに負けての2位です。内心では、ヒルシャーと同時代にワールドカップを戦うことの不運をもっとも感じている選手のはずです。ただ彼自身は 「世界一のアルペンレーサーと戦えることの幸せを感じている」と前向き。以前は追いかけても追いかけても、なかなかとらえることのできないことに苛立った表情を見せることもありましたが、最近では、ことあるごとにヒルシャーに対する尊敬の念を口にします。そして絶対王者への挑戦を楽しんでいるようにも感じます。あるいは、ヒルシャーの現役最後の冬となるかもしれない今シーズン、クリストッファーセンが、ヒルシャーから勝利をそしてタイトルを奪い取ることはできるのでしょうか。


通算60勝目のヒルシャー。16回目の2位クリストッファーセン、そして4度目の表彰台のオルソン




 日本選手は3人が出場しました。大越龍之介(東急リゾートサービス)が72番、成田秀将(カワサキフィールドSC)が74番、新賢範(ブレイン)が75番というスタート順。この位置から2本目に残るのは並大抵のことではありません。3人ともゴールしたものの、大越がヒルシャーと4秒07、30位と1秒19差の54位となったのが最高という厳しい結果でした。 レース後、ホテルに新賢範を訪ねインタビュー。昨シーズンのファーイーストカップGSでアジアNo.1の座をつかみ、今季のワールドカップ出場権を獲得した新ですが、世界の壁の前で奮闘中。まだ始まったばかりのチャレンジのなかから、何をつかむのか、結果はともかく、彼の戦いにも注目していきたいと思います。

大越龍之介(東急リゾートサービス)1本目54位(+4.07)

成田秀将(カワサキフィールドSC)64位(+5.17)

新賢範(ブレイン)69位(+6.70) ※日本選手の順位はいずれも1本目

また一部日本でも報道されているようですが、ビーヴァー・クリークのGS第1戦で優勝したシュテファン・ルイツ(ドイツ)が、そのレースのスタート前に酸素を吸入したという疑惑が浮上しています。ドイツチームはこの事実を認めており、ルイツと他の数人のドイツ選手が、現在FISによる調査を受けています。どんな処分が下されるのか、あるいは下されないのかについては、まだ発表がなく、このレースへの出場はFISによって認められていました。ただ、塁つは1本目で8位タイ。2本目は、致命的なミスを犯して30位に沈むという低調な滑り。今回の問題が影響しているのは明らかな印象でした。


2本目のゴールでがっくりとうなだれるシュテファン・ルイツ

 酸素吸入自体は、WADA(世界反ドーピング機関)の定めるドーピングにはあたりませんが、FIS(国際スキー連盟)は、独自の規定を設けて競技中の酸素ボンベの使用を禁止しています。  ドイツチームの監督マティアス・ベルトールド(彼自身はオーストリア人です)は、 「チームドクターとも相談し、ビーヴァー・クリークの標高の高さを考慮して選手の健康管理のために使用したものであり、WADAの規定には反していない」とFISに反論しているということです。ただFISの規定は2016年に定められており、ドイツ以外のチームはこれを遵守しています。ルール違反であることは間違いなく、FISがどのような裁定を下すのかが注目されます。 選手のなかでも、この問題についての見解はさまざま。たとえばクリストッファーセンは 「それについては語るべき事実を持っていないので、何もコメントできない。ただ、ノルウェーチームは、トレーニングを含めて酸素ボンベを使うことはない」と述べ、ヒルシャーは 「これはルイツ自身のミスではない。プロフェッショナルなレーサーとして、コーチやチームドクターの指示には100%の信頼をおくべきだからだ」とルイツを擁護しています。





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