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全日本選手権男子GSは石井が2年連続4度目の優勝

すでに日付としては昨日になってしまいましたが、12月26日から全日本スキー選手権のアルペン競技が始まりした。会場は昨年と同様、北海道の国設阿寒湖畔スキー場です。昨年は平昌五輪、そして今季はオーレ世界選手権への切符をかけた戦い。日本一決定戦であると同時に、世界のビッグイベントにつながる大会として、とても重要な意味を持つ戦いと言えるでしょう。初日は男子ジャイアント・スラロームが行なわれ127人の選手がスタート。ワールドカップ並に硬く、ワールドカップ並?に多くの滑落者も出たアイスバーンで、“全日本”の名にふさわしい白熱したレースが展開されました。


2本ともベストタイムで優勝の石井智也。タイム差以上の差を感じさせる見事な勝利だった


トップ選手たちの今季のここまでの戦い方を大きく分けると、ワールドカップに挑戦中の成田秀将(カワサキフィールドSC)、大越龍之介(東急リゾートサービス)、新賢範(ブレイン)。ヨーロッパカップ、FISレースを中心にヨーロッパを転戦してきた石井智也(ゴールドウインSC)と加藤聖五(野沢温泉SC)。さらには中国に遠征し、ファーイーストカップを戦ってきた若月隼太(近畿大学)、相原史郎(東海大学札幌高校)、松本達希(矢口製作所SC)、中村舜(古河市スキー協会)らの3つのグループに分けられます。それぞれのポジション、戦略によってこうした別々の選択になったわけですが、そんな日々を過ごしてきた選手たちが、同じ舞台に結集し、雌雄を決するのが全日本選手権なのです。

個人的には、こういう国内レースでは誰を応援すればいいのか、とても悩みます。勝ってほしい選手がたくさんいて、ワールドカップのように客観的に見ることができないからです。実際には、彼らの苦労のほんの一端をうかがい知るのみですが、それでも感情移入してしまう選手が数多くいて、撮影しつつ心は穏やかではありません。場内スピーカーから聞こえてくる速報タイムに、一喜一憂しながら写真を撮っていました。


2本目インスペクション中の石井。度重なるゲートへのヒットで樹脂がむき出しとなったヘルメットが印象的だ

優勝したのは、石井智也。2年連続4回目の全日本選手権優勝で、そのすべてがGSです。現時点でのFISポイントも、GSでは日本人ダントツトップ。本来ならば、ナショナルチームに選ばれてもおかしくない実力の持ち主ですが、ここ数年、メンバー外に甘んじ、プライベートで戦っている苦労人です。イタリアの南チロル地方(オーストリアとの国境に近い地域)にベースを置く多国籍チーム、WRA(World Racing Academy)に所属。各国のナショナルチームから外れたり、そもそもナショナルチームがまとも機能にしていない国々の選手たちとともに、世界への扉を開こうと奮闘中の石井。あえて厳しい環境のなかに身をおき、年々たくましさと速さを獲得してきました。このレースでは、1本目1番スタートでベストタイムをマークし、2本目は30番目に滑ってリードを守りきる堂々たるレースっぷり。少し大げさに言えば、ワールドカップにおけるマルセル・ヒルシャーのような存在感を見せつけました。ただし、本人はけっして満足できる滑りではなかったらしく、レース後に見せる笑顔も最小限。インタビューでは、 「狙い通りの展開にはなったけれど、外足に乗り切ることができなかった。こんな滑りをしていたのでは、ヨーロッパでは勝負にならない」と喜びよりも反省と悔しさを、より多くにじませていました。比較的直線的で、技術の差が出にくいコースセットだったせいか、2位松本とは0秒60、3位若月とも0秒64とあまりタイム差のつかない勝負でした。ただし、印象としてはタイム差以上の違いが感じられたのも確か。滑りの精度という点では他を圧倒してように思います。それは選手たちに話を聞いても同様で、タイム差は別として、多くの選手が 「今の智也さんに勝つことはむずかしい」と語っていたのが印象的でした。 これで、石井はオーレ世界選手権への出場権をほぼ確実にしました。年明けからはナショナルチーム入りという道も開けてきましたが、今後どんな体制で戦うかはまだ決めかねている様子。WRAではすでに石井の全日本選手権優勝を織り込み済みで、世界選手権に向けてチームとして“石井シフト”を敷いてサポートする計画もあるようです。今季のヨーロッパカップではGS4戦のすべてでポイントを獲得中で、第4戦では今季最高の20位まで順位を上げています。もちろんワールドカップよりは格下の大会ですが、ヨーロッパカップは、コンチネンタルカップのなかで別格の厳しさを持つ大会。同じレベルの選手たちがこぞって出場してくるために、そのなかで勝ち上がるのは非常に難しく、層の厚さという点ではむしろワールドカップ以上のタフな大会と言ってもよいでしょう。そんな環境で揉まれてきた彼が、年明けのレースでどんな活躍を見せてくれるのか、とても楽しみになってきました。


ゴールで記者の質問に答える松本達希。2本ともよい滑りだったが、石井を破ることはできなかった

2位松本は大健闘。ジュニア世代のときは、いわゆるTOTOチームの主要メンバーとして期待されてきた松本ですが、昨シーズンは選考基準を満たすことができず、今季はナショナルチームを外れている選手です。大学を卒業し、社会人1年目。 「良い環境でスキーをさせていただいています」とはいうものの、ひとりでトレーニングをするのはけっして楽な道ではなかったはず。中国でのファーイーストカップではコンスタントにトップ10に入り、現時点でのGSランキング5位(日本人2位)とまずまず成績を残し、ひそかに自信を持って臨んだ全日本選手権でした。1本目は3位。2本目もゴールした時点で暫定トップに立ち、次に滑った1本目2位の中村が4位(最終的には5位)に順位を下げたため、この時点ではオーレ行きの切符に手がかかりました。しかし、最終的には石井の牙城を崩すところまでは行かず2位が確定。 「滑り自体は悪くなかった。ただもう少し積極的に行けばよかったかもしれない」とレースを振り返りました。

1本目の急斜面で大きなミスを犯した若月だが、その後のスピードには目をみはるものがあった

3位に入ったのは近畿大学2年生の若月です。1本目は中間付近の急斜面で上体が回ってしまう大きなミス。あわやコースアウトかと思われましたが、驚異的な粘りで体勢を立て直すと、後半は猛反撃に転じました。 「緩斜面のミスは致命的だが、急斜面では失敗しても挽回するチャンスはある」とは、よく言われることですが、まさにその典型的な例でした。タイムは石井から0秒38差の4位。2本目で順位をひとつ上げて3位表彰台に到達。世界選手権への切符は取れませんでしたが、ジュニア世界選手権の出場権を獲得しました。今季のワールドカップ開幕戦への出場が決まっていましたが、悪天候のためにレースが中止となり、幻のワールドカップデビューに終わっていた若月。今シーズン中に、今度こそのワールドカップ出場は叶うのでしょうか。


ワールドカップ組としては最上位の4位となった大越龍之介

ワールドカップ組では、大越の4位が最高。1本目で6位と出遅れ、2本目は石井に次ぐセカンドベストをマークし4位に浮上しました。本来スラロームを得意とし、昨シーズンのワールドカップではウェンゲンで19位に初入賞を果たしている大越。今季はGSの調子もよく、ヴァル・ディゼールのワールドカップ第2戦では2本目進出まであと1秒04と迫っています。ただし、ヨーロッパから戻ったのが、12月24日という強行スケジュール。コンディションが万全ではなかったせいもあり、石井を追い詰めることはできませんでした。 同様に、成田、新のワールドカップ組も不発に終わりました。28日に行なわれるスラロームでの巻き返しを期待したいと思います。 もうひとり、このレースを盛り上げたのが中村。1本目は石井とわずか0秒24差でつけて存在をアピール。逆転を狙った2本目に「気負いすぎて」リズムに乗り切れなかったことは悔やまれますが、一昨シーズン半ばに十字靭帯を断裂した膝の状態が万全ではないなかでの、1本目の滑りは見事だったと思います。

昨シーズンの全日本選手権GSでは60番台のスタート順だった中村。今季は5番スタートで意地を見せた

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